こんにちは、にっしーです。
いくらでも蛇口をひねれば出てくる水、水道代もさして高くない。しかし水を出しっぱなしにしていると親に怒られたものです(水の流れていく音はお金を落とした時の音だと言われませんでした?我が家だけかな笑)。
なぜそんなに大切にしないといけないのか子供心にあまり納得できませんでしたが、水が生き物にとって一番重要な要素であるのは間違いありません。
今回ご紹介する本「水の世界地図」は、統計を通して水をめぐる世界の現実を見ることができる本です。
概要
この本は、ロビン クラーク・ジャネット キングの著作を、沖 明が翻訳、沖 大幹が監訳し、2010年に丸善から刊行されました。
文章だけでなく分かり易いカラーの図や写真も添えて説明する本で、1トピックが見開き2ページにまとめられており、内容が固い割には読みやすいです。若干情報は古い(原著は15年前に発刊)のですが、日本にいると意識しづらい世界各地の問題に触れることができます。つまりとてもまじめな本で、つまらないと思う人も多そうですが、世界の水事情についてのとにかく膨大な量のデータと幅の広い話題とが載っていますので、体の70%を占める水のことが気になる方や海外の水事情を(メディアを通じて得られる情報よりも突っ込んで)知りたい方にはぜひ読んでほしい本です。
世界の水問題
ざっくり内容を紹介すると、まず大きな視点で始まります。地球上の水のわずか2.5%が淡水で、その三分の二は氷である等の理由で人間がアクセスできない。しかも残りの使える水も分布が偏りすぎていて、清潔な水を使えない人が何億人もいる。そこへさらに需要が膨らみ続けていて農業から(穀物を家畜に与えなくてはいけない)畜産、工業、特に最近のコンピューター生産と用途が広がっているだけでなく、人口も増加し続けている、と。
そこから個別のトピック、つまり国際的な紛争、気候変動の影響、人間以外の動物への影響、生産のための需要、汚染の現状、これから必要とされる取り組みへ話が広がっていきます。ちょっと難しい話もありますが、(興味さえあれば)中高生でも理解できる内容かなと思います。
私にとって目新しかったのは、最終章で出てくる「ウォーターフットプリント」「バーチャルウォーター」という概念でした。バーチャルウォーターは商品を作る際に必要な水の量、ウォーターフットプリント(「カーボンフットプリント」の水バージョン)は水の量だけでなく、どの地域のどの水源から水を消費しているかも加味した概念です。例えば衣類を買うとその製造に使われる木綿の生産国から、栽培に必要な水を仮想的に輸入している、という考え方です。商品によっては、日本より水資源がひっ迫した国から水を輸入してしまっていることになるんですよね。といはいえ必要な商品がどこで生産され、どれだけの水が使われるのか私たち消費者にはコントロールできませんし、服や食料の場合は国産品に切り替えるという手があるものの、国産ばかり買うのはお財布的に非現実的なのでもどかしいところではあります。
この本を読んで、世界には水に関する深刻な問題が思っていたよりもいろいろあるという発見があり、これから日本でも上水道の民営化が進む(かも?)など、水について考える機会は増えそうなので、周辺知識として役に立つかもしれないなと思いました。
さて、このデータ主体と言ってよい本書において、人間味の部分が「あとがき」に残されていました。
この本の訳者と、監訳者
英語の原著を和訳した本書には、訳者だけでなく、監訳者がついています。あとがきを見て初めて分かったのですが、監訳者はなんと訳者の息子さんです(そういえば名字が同じ)。そしてなんと父親である訳者は翻訳業の方ではなく、水に関する国際問題にも全く知見の無い元銀行員の方なのですが、原著と出会い、使命を感じて着手されたとのこと。プロとしての翻訳の経験もなく、大学受験の英語の勉強だけの知識で乗り切られたようです。一方息子さんは有識者で、水文学を専門とする現役の研究者です(すいもんがく:陸地での水の動きや分布の仕方を研究。この方は「水のノーベル賞」とも呼ばれる「ストックホルム水大賞」の2024年の受賞者に選出されたすごい人です)。
このように背景知識が豊富なこともあり、何かと翻訳に手を入れたり、原著のおかしいところに注釈を入れたりと、かなりの作業量だったとのことです。ご自分の家族との時間を犠牲にして作業されたようですが、出版出来て喜んでいるお父上を見て「親孝行はできているのかなという思いです」といったオマケ話付きのあとがきでした。